自転車がパンクした

 自転車がパンクした。困ったことに近所の自転車屋さんがなくなっている。

 電話帳で近くに自転車屋さんがないか調べた。幸いなことに10分位歩いたところに自転車屋さんがあった。
 早速電話してみる。奥さんらしき人が電話に出た。声から結構年配の女性のように感じる。

「自転車のパンク修理はやってますか?」
 と、たずねた。やっているとの返事。場所を確認する。丁寧に場所を教えてくれた。
 自転車を引いて店の中に入る。
「こんにちは」
 と、声を掛ける。奥から初老の店主が出てきた。

「いま、電話くれた人かい? そこに腰かけて」
 と、椅子を出してくれた。

「パンクだね」
 と、自転車をひっくり返してチューブを取り出す。さすが職人さんって感じ。手際がよい。
「近所の人かい」

「二丁目」

「そっか。山田自転車さん、止めちゃったからねぇ〜」
 と、おやじさんの話が始まった。

「この自転車、随分長く乗ってるみたいだね」
「でも、十年くらいかな」
「パンクなおしても、直ぐにパンクするかも知れないよ」
 と、おやじさんが言う。

 どれどれと、おやじさんの手元を覗き込んだ。
「ほら、タイヤの横がひび割れしてるだろう。それに、チューブも延びてる」
「パンク修理は1200円。タイヤ取り替えたら4800円だな。どっちでもいいよ」

 パンク修理なら二千円もあれば十分と思っていた。しかし、財布の中には五千円札しかなかったので、それをポケットに入れてきていた。
<これからもこの自転車にはお世話になることだし>
 と思い、タイヤを取り替えてもらうことにした。

「最近は、エコの時代とかで、自転車も見直され始めたんじゃないの?」
自転車屋さんも復活してくるとか」

「いやぁ〜、世の中そう甘くはないんだよねぇ〜」
 と、道具箱からいろいろと道具を取り出しながら、自転車からタイヤを取り外した。

「なぜかって、日本じゃ自転車作れなくなってきてるんだよね。だから修理もできなくなってきている」

「なんで?」

「ほらね。このサドルもそうだし、ペダルもそうだし。いまじゃ、部品は全部中国で作ってる。日本で部品を作るメーカが居なくなってしまった」

<なる程、この話は自転車だけの話じゃないなぁ〜>
 と思いながら、おやじさんの話に聞き入った。

「この自転車のブレーキは、いいもの使ってる」
 と、自転車から外した車輪を持ち上げながら説明してくれた。
「ほら、ブレーキを絞めても、キーキー言わないように工夫されてる」
「チェーンも油を注さなくても錆びないようになっている」

「まだまだ乗れるね」
 と、こたえた。

「金沢に100軒以上あった自転車屋さんは、いまでは30軒になってしまった」
 と、新しいタイヤを車輪に取り付け終わったおやじさんが、少し寂しげにつぶやいた。

「そんなに少なくなったんだ」

「石川県全体で100軒あるかないかだな。町によっては、一軒もないところもあるよ」
「修理には、お金はかかるし、時間もかかる。結局は新しい自転車を買うってことになったり・・・」
「ホームセンターなどの量販店でも自転車修理しますってとこあるけど、パンク修理ですら、メーカに運んで修理しますってんだから・・・」
「何処か変で、なさけないというか、なんというか。寂しいものを感じるね」

「おやじさんの言う通りだね。そのうち、自動車だってそうなるかも。どっか変だねぇ〜」

 おやじさんは、取り付けた車輪の回り具合やブレーキの掛かり具合をみながら、キュ・キュッとボルトを絞めていく。そして、要所要所に油を注してくれている。ひっくり返していた自転車を元に戻して、車輪の回り具合と、ブレーキの掛かり具合を再度みて

「はい。出来上がり。まだまだ乗れるよ」
 と、サドルをポンと叩いた。

「ありがとう」
 と、ポケットに入っていた五千円札を差し出した。二百円のおつりをポケットに入れた。

<まだまだ、元気で自転車屋を続けてね>と、こころでつぶやいて、店を後にした。

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